なぜ日本の森林は手入れが必要なの？私たちの暮らしと繋がる「森林整備」の話
私たちの国土の約7割を占める「森林」。普段、何気なく目にしている山の緑ですが、実は日本の森林の多くは、人の手による「整備」が必要な状態にあることをご存知でしょうか？
「森林整備」と聞くと、林業に関わる特別なことのように感じるかもしれませんが、実は私たちの毎日の暮らしや、これから先の未来と深く繋がっている、とっても大切な取り組みなんです。
この記事では、なぜ日本の森林には手入れが必要なのか、森林整備が私たちの生活にどんな良い影響を与えているのか、そして整備が進まないとどんな問題が起こるのかを、分かりやすくお話しします。「森林整備」を自分事として捉え、豊かな森の恵みを未来へ繋いでいくためのヒントを見つけていきましょう。
日本の森林ってどれくらいあるの？
改めて考えてみると、日本は本当に緑豊かな国です。国土面積に対する森林の割合を示す「森林率」は約66%と、森林大国として知られるフィンランドやスウェーデンと肩を並べるほどです。
この広大な森林のうち、約4割は、戦後、木材資源を確保する目的などで人の手によって植えられた「人工林」です。これらの人工林は、植えっぱなしでは健全に育たず、定期的な手入れが必要になります。
「森林整備」って具体的に何をするの？
森林整備と一言で言っても、様々な作業があります。主なものをいくつかご紹介します。
- 植栽（しょくさい）：苗木を植える作業です。木を伐採した後に、新しい苗木を植えることで、次の世代の森を育て始めます。
- 下草刈り（したくさかり）：植えたばかりの苗木が、周りの草に負けないように、下草を刈ってあげる作業です。
- 枝打ち（えだうち）：木の枝を切る作業です。枝を整理することで、節のない良質な木材が育ちやすくなります。
- 間伐（かんばつ）：混み合っている木の一部を抜き伐りする作業です。木と木の間隔を適切に保つことで、残った木に十分な光が当たり、根っこがしっかりと張れるようになります。これが、後で話す「災害を防ぐ機能」にも繋がります。
これらの作業を、木の成長段階に合わせて適切に行うことが、「健全な森林」を育てるために不可欠なのです。
なぜ森林整備は必要なの？私たちの暮らしとの繋がり
「別に放っておいても、勝手に育つんじゃないの？」と思うかもしれません。でも、特に人工林は、人の手で適切な手入れをしないと、様々な問題が起こってしまいます。そして、それは私たちの暮らしにも影響してくるのです。
森林が持つ、私たちの生活を支える大切な「働き（機能）」を見てみましょう。森林整備は、これらの働きを最大限に引き出すために必要です。
1. 災害から私たちを守ってくれる（国土保全機能）
森林の木々がしっかりと根を張ることで、地面が安定し、雨が降っても土砂が流れ出るのを防いでくれます。また、雨水を一時的に蓄えるダムのような役割も果たし、洪水を和らげます。
しかし、手入れが行き届かず、木が密集しすぎた森林は、地面に光が届かず下草が生えにくくなります。すると、雨が降った時に土がむき出しになり、土砂崩れが起こりやすくなってしまうのです。適切な間伐で地面に光を届け、下草を育てることが、災害に強い森を育てる上で重要です。
2. きれいな空気や水を生み出す（水源涵養機能、地球温暖化防止機能）
森林は、二酸化炭素を吸収して地球温暖化を防いでくれたり、きれいな酸素を作り出してくれたりします。まさに「地球の肺」のような存在です。
また、森林の土壌は、雨水をゆっくりとろ過し、不純物を取り除いてきれいな水にしてくれます。こうして蓄えられた水は、私たちが使う水道水や、農業用水、工業用水として利用されています。私たちが当たり前のように使っている「きれいな水」は、森林の恵みなくしては成り立ちません。
3. 生き物の大切なすみか（生物多様性保全機能）
多様な種類の木々が生い茂る豊かな森は、そこに暮らす様々な動物や昆虫、植物にとって大切なすみかとなります。
手入れのされていない森林は、特定の種類の木だけが密集してしまい、光が入らず多様な植物が育ちにくくなります。すると、そこに依存している生き物たちのすみかも失われ、生物多様性が失われてしまう可能性があります。適切な整備によって、多様な環境を作り出すことが、多くの生き物を育むことに繋がります。
4. 木材という恵みを与えてくれる（林産物供給機能）
森林は、家を建てる木材や、家具、紙などの原料となる木材を私たちに与えてくれます。計画的に木を育て、適切に伐採し、再び植えるというサイクルを回すことで、持続的に木材を利用することができます。
適切な森林整備は、良質な木材を育てるためにも必要です。国産材を利用することは、日本の森林を守り育てることにも繋がります。
5. 心を癒してくれる場所（保健・レクリエーション機能）
森林の中を散策したり、森林浴をしたりすることは、私たちの心身に良い影響を与えてくれます。新鮮な空気を吸い、緑に囲まれて過ごす時間は、リフレッシュ効果抜群です。
整備された森林は、歩きやすく、より安全に自然を楽しむことができます。
森林整備が進んでいないとどうなるの？
もし森林整備が適切に行われず、日本の森林が荒れていってしまったら、どうなるでしょうか？
- 土砂災害や洪水のリスクが増加し、私たちの命や財産が脅かされます。
- 水源の機能が低下し、私たちが使える水の量や質が悪くなる可能性があります。
- 生き物のすみかが失われ、日本の豊かな生物多様性が失われてしまいます。
- 地球温暖化を防ぐ力が弱まり、気候変動の問題が深刻化する可能性があります。
- 森林が持つ癒しの空間も失われてしまいます。
つまり、森林整備が進まないことは、私たちの安全で快適な暮らしを支える基盤が崩れていくことにつながるのです。
森林を守り育てるために、私たち一人ひとりができること
森林整備は、林業に携わる人たちだけが行うものではありません。私たち一人ひとりも、森林を守り育てるためにできることがあります。
- 「木づかい」をしよう！国産材を選ぶ：家を建てたり、家具を買ったりする際に、日本の森林で育てられた木材「国産材」を積極的に選びましょう。国産材を使うことは、日本の森林に手入れをする人たちの活動を応援することになり、森林のサイクルを回すことに繋がります。
- 植林や間伐体験に参加する：自治体や森林組合などが主催する、植林や間伐の体験イベントに参加してみましょう。実際に森で作業をすることで、森林整備の大切さを肌で感じることができます。
- 森林保全に取り組む団体を支援する：森林を守るための活動を行っているNPOやボランティア団体に寄付をしたり、活動に参加したりすることも、森林を守ることに繋がります。
- 森について学ぶ：森林や林業について書かれた本を読んだり、関連するイベントに参加したりして、知識を深めることも大切です。知ることが、行動の第一歩になります。
- 森林からの恵みに感謝する：私たちが普段使っている木製品や、きれいな水、美味しい空気などが、森林からの恵みであることを意識し、感謝の気持ちを持つことも、森林を守る意識を高めることに繋がります。
まとめ：豊かな森を未来へ繋ぐために
日本の森林は、私たちの暮らしや未来にとって欠かせない、かけがえのない財産です。そして、その豊かな恵みを維持し、次の世代に引き継いでいくためには、「森林整備」が不可欠です。
森林整備は、決して特別なことではありません。それは、災害から私たちを守り、きれいな水や空気を生み出し、多様な生き物を育み、そして私たちの心を癒してくれる森の「健康診断」であり、「お手入れ」なのです。
私たち一人ひとりが、日本の森林に関心を持ち、できることから行動すること。それが、豊かな森を未来へ繋いでいくための、確実な一歩となるはずです。